東京地方裁判所 平成2年(ワ)11289号 判決 1994年2月16日
原告
山口眞理子
原告
竹平健二
右両名訴訟代理人弁護士
谷正之
同
光前幸一
右両名訴訟復代理人弁護士
小島滋雄
被告
陳嬌英こと
梅村英子
右訴訟代理人弁護士
桑原宣義
主文
一 被告は原告らに対し、それぞれ金一億〇一六八万七五〇〇円及びこれに対する平成五年一月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は原告らに対し、それぞれ別紙物件目録二記載の土地につき、東京法務局新宿出張所平成元年八月二五日受付第三二六九七号をもってされた所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。
三 原告のその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用は被告の負担とする。
五 この判決は、主文第一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 原告らの請求
1 (平成二年(ワ)第一一二八八号事件)被告は原告らに対し、それぞれ金一億二五〇一万九八〇五円及びこれに対する平成五年一月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 (平成二年(ワ)第一一二八九号事件)被告は原告に対し、別紙物件目録二記載の土地につき、東京法務局新宿出張所平成元年八月二五日受付第三二六九七号をもってされた所有権移転登記の抹消手続をせよ。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 右第1項につき、仮執行宣言。
第二 事案の概要
一 当事者
1 原告山口眞理子(原告山口)は、陳石城と竹平きみ子(きみ子)の女として昭和二三年八月五日に出生し、同月一三日きみ子により出生届がされて戸籍に入籍され、昭和二三年九月二日、国籍中華民国陳石城を父とする認知届がされている(<書証番号略>)。
2 原告竹平健二(原告竹平)は、陳石城ときみ子の男として昭和三二年四月一一日に出生し、同月二六日きみ子により出生届がされて戸籍に入籍され、昭和三五年五月三〇日国籍中華民国陳石城を父とする認知届がされている(<書証番号略>)。
3 被告は陳石城の妻であるところ、陳石城は平成元年一〇月二日死亡した(<書証番号略>)。
二 争いのない事実等
1 別紙物件目録一記載の土地(本件一の土地)については、東京法務局豊島出張所昭和五〇年一〇月一六日受付第四六六三九号 原因昭和五〇年一〇月一五日売買 共有者 持分一〇分の五陳石城 持分一〇分の三被告持分一〇分の二きみ子との共有者全員持分全部移転登記がされた(<書証番号略>)。
2 本件一の土地に対する陳石城の持分一〇分の五については、東京法務局豊島出張所平成元年一一月一五日受付第三〇六三〇号 真正な登記名義の回復を原因として、被告に対する持分移転登記がされた(<書証番号略>)。
3 本件一の土地については、東京法務局豊島出張所平成二年三月二二日受付第七〇七一号 原因平成二年三月二二日売買として龍水通に対する共有者全員持分全部移転登記がされた(<書証番号略>)。
4 別紙物件目録二記載の土地(本件二の土地)については、東京法務局新宿出張所昭和二六年一〇月一二日受付第一〇七二八号 原因同日売買として陳石城に対する所有権移転登記がされた(<書証番号略>)。
5 本件二の土地については、東京法務局新宿出張所平成元年八月二五日受付第三二六九七号 真正な登記名義の回復を原因として被告に対する所有権移転登記がされた(<書証番号略>)。
三 原告らは、陳石城の相続人であり、亡陳石城の遺産につき、各八分の一の相続分を有することを前提として、被告に対し、次のような内容の請求をしている。
1 (平成二年(ワ)第一一二八八号事件)
本件一の土地に対する陳石城の一〇分の五の持分につき、平成元年一一月一五日受付でされた被告に対する前記持分移転登記は虚偽のもので、右持分は同人の遺産であり、原告らはいずれもこれに対する各八分の一の持分を有しているのに、被告は平成二年三月二二日無断で本件一の土地を龍水通に代金二〇億〇〇三一万六八八九円で売却したものであるとして、不法行為に基づく損害賠償請求ないし不当利得返還請求として、原告らは被告に対し、それぞれ、右売買代金の一〇分の五に当たる金一〇億〇〇一五万八四四四円の八分の一に相当する金一億二五〇一万六八〇五円及び右請求内容を記載した準備書面が送達された日の翌日である平成五年一月一五日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた。
2 (平成二年(ワ)第一一二八九号事件)
原告らは被告に対し、本件二の土地は陳石城の遺産であり、東京法務局新宿出張所平成元年八月二五日受付第三二六九七号をもってされた被告に対する所有権移転登記は虚偽のものであるとして、その抹消登記手続を求めた。
四 被告の本案前の抗弁
1 (平成二年(ワ)第一一二八八号事件及び平成二年(ワ)第一一二八九号事件)
(一) 陳石城による原告らに対する各認知届については、被告において各認知無効確認訴訟を提起して、各訴訟は審理が継続しているから、原告らが陳石城の相続人であることは確定していない。したがって、原告らは本件訴訟において当事者適格がない。
(二) 本件一及び二の土地については、被告において、陳石城の遺産ではないと争っているところ、陳石城の遺産については相続人間で遺産分割協議手続が経由されていないから、原告らの本件請求はいずれも不適法である。
2 (平成二年(ワ)第一一二八九号事件)
原告らの本件二の土地についての被告に対する所有権移転登記の抹消登記手続を求める請求は、その前提として本件二の土地が陳石城の遺産であることを確定する必要があるから、本件訴訟は共同相続人全員を被告とする必要的共同訴訟としてされるべきである。
五 本案における争点及び当事者の主張
1 (平成二年(ワ)第一一二八八号事件)
(一) 原告ら
(1) 原告らは陳石城の相続人であり、その相続分は各八分の一である。
(2) 陳石城は死亡当時本件一の土地の一〇分の五の持分を所有しており、これは同人の遺産である。
陳石城が本件一の土地に対する一〇分の五の持分を所有するに至った経過は次のとおりである。
本件一の土地の元所有者松本義雄の相続人である松本定雄、松本政美、松本巌、松本義継、溝口さよ子、松本俊明が原告となって被告に対して提起した東京地方裁判所昭和四九年(ワ)第五八二八号について昭和五〇年一〇月一五日に成立した民事調停において、右松本らから、被告が持分一〇分の三を金五二五万円で、陳石城が持分一〇分の五を金八七五万円で、きみ子が持分一〇分の二を金三五〇万円で買受ける旨の売買契約が成立して、陳石城は本件一の土地の持分一〇分の五を所有するに至った。
(3) 被告は龍水通に対し、本件一の土地を代金二〇億〇〇三一万六八八九円で売却したので、被告は原告らに対し、それぞれ、不法行為の損害賠償ないし不当利得の返還として、右売却代金のうち、陳石城の持分一〇分の五に当たる金一〇億〇〇一五万八四四四円の八分の一に相当する金一億二五〇一万六八〇五円を支払う義務がある。
仮に、原告らの被告に対する右の代償請求権が遺産分割協議の対象となるべきもので、かつ、遺産分割協議を経由しないと被告に請求できないということになる場合は、原告らの右金銭請求は民法二五二条所定の保存行為として肯定されるべきである。
(二) 被告
(1) 原告らが陳石城の相続人であること及びその相続分が各八分の一であることを否認する。
(2) 本件一の土地について、地主の相続人松本らと被告、陳石城及びきみ子の間に原告らの主張する売買契約が成立したことを否認する。被告は、右松本らから、本件一の土地を昭和五〇年一〇月一五日代金一七五〇万円で買受けてその所有権を取得した。平成元年一一月一五日受付で本件一の土地に対する陳石城の持分一〇分の五について被告に移転登記がされたのは、本件一の土地の真実の所有者が被告であることを承知している陳石城が登記を実体に合致させるために被告に移転登記を委任した結果である。
(3) 被告が勝手に本件一の土地を龍水通に売却したことを否認する。被告はきみ子と連名で、平成二年三月六日に株式会社富士建築設計事務所に対し、金一八億二七〇〇万円で売却し、内金二億万円はきみ子が取得している。仮に原告らの主張する損害賠償請求ないし不当利得返還請求権が代償請求権として肯定される場合があるとしても、その金額は争う。
(4) 仮に原告らの主張する代償請求権の存在が肯定されるとしても、これは遺産分割協議の対象とされるべきものであるから、遺産分割協議を経由していない本件においては、原告の本件金銭給付請求を認めることはできない。また本件金銭給付請求は、遺産分割協議を経由しないでされた相続財産の分割請求であるから、保存行為として許されるものではない。
2 (平成二年(ワ)第一一二八九号事件)
(一) 原告ら
(1) 原告らは陳石城の相続人であり、その相続分は各八分の一である。
(2) 陳石城は、昭和二六年一〇月一二日、本件二の土地を岡田文雄から買受けてその所有権を取得したから、本件二の土地は陳石城の遺産である。
(3) 本件二の土地について、平成元年八月二五日受付で被告に対する所有権移転登記がされているのは、被告が不法に陳石城の実印の改印をした上でこれを冒用して虚偽の登記をしたものであるから、原告らは、民法二五二条の保存行為として、前記登記の全部抹消登記手続を求めることができる。
(二) 被告
(1) 原告らが陳石城の相続人であること及びその相続分が各八分の一であることを否認する。
(2) 陳石城が本件二の土地を買受けたとの原告らの主張を否認する。本件二の土地は、被告が昭和二六年一〇月一二日、岡田文雄から金一五〇万円で買受けたものである。
(3) 本件二の土地について、平成元年八月二五日受付で被告に対する所有権移転登記がされているのは、真実の所有者が被告であることを承知している陳石城が登記を実体に合致させるために被告に移転登記を委任した結果である。
(4) 仮に本件二の土地が陳石城の遺産であり、かつ原告らが陳石城の共同相続人であるとしても、原告らの請求している登記の全部抹消は判例(最高裁判所第三小法廷判決昭和五九年四月二四日)上認められない。
第三 争点に対する判断
一 被告の本案前の抗弁について
1 (平成二年(ワ)第一一二八八号事件及び平成二年(ワ)第一一二八九号事件)
(一) 被告は、陳石城による原告らに対する各認知届については、被告において各認知無効確認訴訟を提起し、各訴訟の審理はまだ継続しており、原告らが陳石城の相続人であるとは確定していないから、原告らは本件訴訟における当事者適格がない旨主張しているが、原告らについては、前記第二、一記載のとおり、いずれも陳石城により認知届がされているところ、本件証拠(<書証番号略>、弁論の全趣旨)によれば、被告は、原告山口を被告として千葉地方裁判所松戸支部に、原告竹平を被告として東京地方裁判所に、各認知無効確認訴訟を提起したことが認められるが、平成五年一一月一〇日の本件最終口頭弁論期日の時点で、原告らに対する各認知が無効であることを確認する旨の確定判決は存在せず、かえって、東京地方裁判所(平成三年(タ)第六一七号)は平成五年五月二七日に、被告の原告竹平に対する認知無効確認請求を棄却する旨の判決を言渡したことが認められる。したがって、本件においては、原告らに対する各認知を無効として取扱うことはできない。被告は、原告らに対する認知の効力が未確定であるから、原告らは陳石城の相続人として確定していない旨主張するが、陳石城により原告らに関する認知届がされていることが認められる本件においては、原告らに当事者適格がない旨の被告の主張は採用できない。
(二) 被告は、本件一及び二の土地については、被告が陳石城の遺産ではないと争っているのであるから、陳石城の遺産については相続人間で遺産分割協議手続が経由されるべきであるところ、本件では遺産分割協議がされていないから、原告らの本件請求はいずれも不適法である旨主張するが、本件土地一及び二が陳石城の遺産に属するものか否かについては、遺産分割協議が経由されていなくとも、原告らの本訴請求の可否を決する前提として審理することができるというべきであるから、被告の主張は採用できない。
2 (平成二年(ワ)第一一二八九号事件)
被告は、原告らの本件二の土地についての被告に対する所有権移転登記の抹消登記手続を求める請求は、その前提として本件二の土地が陳石城の遺産であることを確定する必要があるから、本件訴訟は共同相続人全員を被告とする必要的共同訴訟としてされるべきである旨主張するが、被告が引用する最高裁判所第三小法廷判決平成元年三月二八日民集四三巻三号一六七頁は、共同相続人間における遺産確認の訴えにつき、これを固有必要的共同訴訟と解すべきである旨判示したものであるところ、本訴において原告らは、本件二の土地が陳石城の遺産であることの確認を求めているわけではなく、本件二の土地に対する所有権移転登記の抹消登記手続を求める原告らの請求の可否を決する前提として本件二の土地が陳石城の遺産か否かが問題となるにすぎないから、この点の被告の主張は採用できない。
なお、原告らは、原告らとともに陳石城の共同相続人である被告が被相続人(陳石城)の相続開始(平成元年一〇月二日)前に本件二の土地について虚偽の所有権移転登記を経由したことを理由にその抹消登記手続を請求しているのであるから、これが被告の主張する固有必要的共同訴訟と解すべき理由はないというべきである。
二 原告らの相続人としての立場及び相続分について
1 前記第二、一記載の事実によれば、原告らは陳石城の子としていずれも認知されていることが認められる。
2 本件証拠(<書証番号略>、弁論の全趣旨)によれば、被告は陳石城の妻であり、陳石城と被告との間には五人の子がいること、また、陳石城の国籍は中華民国(台湾)であることが認められる。
3 ところで、法例二六条によれば、「相続ハ被相続人ノ本国法ニ依ル」から、亡陳石城の相続人の範囲及び相続分については、中華民国民法によることとなるが、同法によれば、法定相続人の第一順位は直系卑属であり(一一三八条一号)、直系卑属間では親等の近い者が先順位となり(一一三九条)、同一順位の直系卑属が数人ある場合の各相続人の相続分は均等である(一一四一条本文)。また、被相続人の配偶者は常に相続人となり、前記第一順位の直系卑属が相続人となるときは、その者と同順位とされ、その相続分も他の第一順位の相続人と均等である(一一四四条一号)。非嫡出子が実父の認知を経たときは、嫡出子とみなされるから(一〇六五条)、その相続分は他の嫡出子と均等となることとされている(一一四一条本文)(弁論の全趣旨)。
三 平成二年(ワ)第一一二八八号事件
1 本件一の土地の売買について
原告らは、本件一の土地の元所有者松本義雄の相続人である松本定雄、松本政美、松本巌、松本義継、溝口さよ子、松本俊明(松本ら)が原告となって被告に対して提起した東京地方裁判所昭和四九年(ワ)第五八二八号について昭和五〇年一〇月一五日に成立した民事調停において、右松本らから、被告が持分一〇分の三を金五二五万円で、陳石城が持分一〇分の五を金八七五万円で、きみ子が持分一〇分の二を金三五〇万円で買受ける旨の売買契約が成立して、陳石城は本件一の土地の持分一〇分の五を所有するに至った旨主張し、これに対して、被告は原告らの右主張を否認し、被告は、松本らから、昭和五〇年一〇月一五日代金一七五〇万円で買受けて本件一の土地の所有権を取得した旨主張しているが、本件証拠(<書証番号略>、証人竹平きみ子)によれば、本件一の土地については、昭和五〇年一〇月一五日の東京地方裁判所の民事調停期日において原告らの主張する売買契約が成立し、被告、陳石城及びきみ子は、その民事調停期日の席上各自が支払うべき本件一の土地の各持分に対する代金を松本らの代理人島田正雄に支払った事実を認めることができ、これによれば、陳石城は、右売買契約に基づき、本件一の土地の持分一〇分の五を取得したものというべきであり、これに反する被告の前記主張は採用できない。
なお被告は、平成元年一一月一五日受付で本件一の土地に対する陳石城の持分一〇分の五について被告に移転登記がされたのは、本件一の土地の真実の所有者が被告であることを承知している陳石城が登記を実体に合致させるために被告に移転登記を委任した結果である旨主張しているところ、本件証拠(<書証番号略>、証人竹平きみ子、被告、弁論の全趣旨)によれば、陳石城は、平成元年七月糖尿病の末期的症状により様態が悪化したために都内目白病院に入院したが、同年八月一日被告により埼玉県北埼玉郡川里村所在の広仁病院に移され、同年一〇月二日に死亡したこと、陳石城が広仁病院に入院中の平成元年八月一五日、被告が陳石城の代理人として同人の印鑑登録証亡失届及び新たな印鑑についての印鑑登録申請書を東京都新宿区長に提出して実印の改印を行ったこと、その際に陳石城が右改印手続を被告に委任する旨の陳石城作成名義の委任状(<書証番号略>)が提出されていることが認められる。しかしながら、陳石城が自己の実印の改印手続を被告に依頼したこと及び陳石城作成名義の右委任状が陳石城自身により作成された事実を認めるに足りる証拠はない。そして、前記証拠によれば、本件一の土地については、右の経過により改印された陳石城の実印を利用して、陳石城の死亡後の平成元年一一月一五日付で、陳石城の持分一〇分の五について、真正な登記名義の回復を原因として被告に対する所有権移転登記がされた事実を認めることができる。
右に認定した陳石城が本件一の土地に対する持分一〇分の五を取得した経過及び陳石城の右持分について被告に対する移転登記がされるに至った経過に照らすと、本件一の土地に対する陳石城の持分一〇分の五について被告に移転登記がされたのは、本件一の土地の真実の所有者が被告であることを承知している陳石城が登記を実体に合致させるために被告に移転登記を委任した結果である旨の被告の主張は採用することができない。
2 本件一の土地の売却について
本件証拠(<書証番号略>、被告)によれば、被告はきみ子と連名で、平成二年三月六日に株式会社富士建築設計事務所に対し、金一八億二七〇〇万円で売却し、内金二億万円はきみ子が取得し、その余の金員は被告が取得したことが認められるところ、右売却について、被告らが陳石城の共同相続人である原告らの承諾を得ていたこと、ないしその売却代金の一部を原告らに交付したことを認めるに足りる証拠はない。
3 原告らの代償請求権について
原告らは陳石城の相続人として各八分の一の相続分を有していることは前記のとおりである。ところで、本件一の土地は、前記2記載のとおり、被相続人である亡陳石城の相続開始後の死亡後に金一八億二七〇〇万円で売却されたのであるから、亡陳石城の共同相続人は、右売却代金の一〇分の五である金九億一三五〇万円をその相続分に応じて分割取得すべきものというべきであり、したがって、原告らは、右金九億一三五〇万円の各八分の一である各金一億一四一八万七五〇〇円を分割取得すべきこととなる。
4 被告が原告らに対して支払うべき金額
本件一の土地の売却代金は、前記のとおり、金一八億二七〇〇万円で、そのうち被告が金一六億二七〇〇万円、きみ子が金二億円を取得しているというのであるから、被告が原告らに対して支払うべき金額は、被告が取得した金額に比例按分して算出されるべきであるから、原告らが本来取得すべき各分割金一億一四一八万七五〇〇円を基礎としてこれを算出すると、被告が原告らに対して支払うべき金額は各金一億〇一六八万七五〇〇円となる。
四 平成二年(ワ)第一一二八九号事件
1 本件二の土地の売買について
原告らは、本件二の土地は、陳石城が、昭和二六年一〇月一二日、岡田文雄から買受けてその所有権を取得したものであるから、陳石城の遺産に帰属する旨主張し、これに対して被告は、本件二の土地は被告が岡田文雄から買受けたものである旨主張しているところ、本件証拠(<書証番号略>、証人竹平きみ子、弁論の全趣旨)によれば、本件二の土地については、昭和五九年一月九日付で陳石城がその所有権をきみ子に死因贈与する公正証書が作成され、東京法務局新宿出張所昭和六三年二月八日受付第三九二九号をもって、原因昭和五九年一月九日贈与、始期陳石城死亡、権利者きみ子とする始期付所有権移転仮登記がされたこと、しかしきみ子はその後被告との間で、本件二の土地に対する前記仮登記にかかる権利を放棄する旨の合意をしたこと、この合意の内容を記載した平成元年九月二一日付合意書と題する書面(<書証番号略>)には、「竹平君子は陳石城所有の新宿区下落合四―一八―三所在の土地建物に登記してある仮登記を自発的に放棄しその仮登記を抹消する」との記載があり、かつその書面には被告及びきみ子の署名押印があること、そして東京法務局新宿出張所平成二年三月二二日受付第一一〇一一号をもって右仮登記の抹消登記がされているが、右抹消登記手続は、被告ときみ子との間の前記合意に基づくものであることが認められるところ、右の認定事実によれば、被告は、きみ子との間に前記仮登記の抹消登記に関する合意をした当時は、本件二の土地が陳石城の所有であることを了解していたことが認められる。また、前記証拠によれば、本件二の土地の登記済権利書には権利者として陳石城の氏名が記載されていることが認められる。以上の事実に前記各証拠を総合すると、本件二の土地は、陳石城が昭和二六年一〇月一二日岡田文雄から買受けてその所有権を取得したものである旨の原告の主張を肯定することができ、これに反する被告の主張は採用できない。
2 本件二の土地の被告に対する所有権移転登記について
被告は、本件二の土地について、平成元年八月二五日受付で被告に対する所有権移転登記がされているのは、真実の所有者が被告であることを承知している陳石城が登記を実体に合致させるために被告に移転登記を委任した結果である旨主張するが、被告の右主張は、前記1記載の認定事実に照らし、直ちには採用できないものであるところ、本件二の土地の被告に対する前記所有権移転登記は、前記三、1記載のとおりの経緯により、被告が陳石城が病気入院中に同人の実印の改印手続をした上これを利用して登記手続を行ったものであることが認められ(<書証番号略>、被告、弁論の全趣旨)、他方、前記の陳石城の実印の改印及び本件二の土地の被告に対する所有権移転登記が陳石城の意思に基づくものであることを認めるに足りる証拠はない。
右1、2記載の認定事実に照らすと、本件二の土地の所有権は陳石城に帰属していたものであり、被告がその所有権を取得した事実を認めるに足りる証拠はなく、したがって、被告に対する前記所有権移転登記は、実体に符合しない虚偽の登記というべきである。
3 被告は、仮に本件二の土地が陳石城の遺産であり、かつ原告らが陳石城の共同相続人であるとしても、原告らの請求している登記の全部抹消は判例上認められない旨主張している。
最高裁判所第二小法廷判決昭和三八年二月二二日民集一七巻一号二三五頁、最高裁判所第三小法廷判決昭和五九年四月二四日等の判例は、共同相続した不動産について共同相続人の一人が勝手に単独所有権取得の登記をした場合は、他の共同相続人は、自己の持分についてのみ一部抹消登記としての更正登記を求めることができるにすぎず、所有権取得登記の全部抹消登記を求めることはできない旨判示しているが、本件は、共同相続人の一人である被告が、相続開始前の平成元年八月二五日付で被相続人である陳石城所有の本件二の土地について実体と符合しない不実の所有権移転登記を経由した場合であるから、前記最高裁判所の判例とは事案が異なるものであり、前記の本件の事実関係の下においては、共同相続人である原告らは被告に対し、民法二五二条の保存行為として、被告に対する前記所有権移転登記の全部抹消登記を求めることができるものというべきである。
五 以上によれば、原告らの本訴請求は、被告に対し、それぞれ金一億〇一六八万七五〇〇円及び本件代償請求の内容を記載した準備書面が送達された日の翌日である平成五年一月一五日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払並びに本件二の土地の被告に対する前記所有権移転登記の抹消登記手続を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余の請求を棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判官濵野惺)
別紙物件目録<省略>